カエサル『内乱記』 二人の英雄の全面戦争が熱い
カエサルの『ガリア戦記』の続編とも言える作品、『内乱記』を読んだ。
同じく國原吉之助訳による講談社学術文庫版である。
- 作者: カエサル,國原吉之助
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1996/06/10
- メディア: 文庫
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カエサルvs.ポンペイウス
『内乱記』は、ガリア戦争でウェルキンゲトリクスを倒し、ガリア全土を支配下に収めたカエサルが、「三頭政治」の盟友であり、最大のライバルとも言える英雄ポンペイウスと繰り広げた戦争の経過を著したもの。
ガリア戦争の最中から、カエサルはポンペイウスを擁する元老院派と対立を深めており、戦後もカエサルはイタリアに帰れない状態が続いた。
当時、ローマ共和国はイタリア半島のほぼ全域を「本国」としており、それ以外の地域は「属州」として総督を置いて支配していた(カエサルのガリア戦争によってガリアも属州になった)。
ローマ共和国には「軍隊を率いてイタリアに入ってはいけない」という法律があり、カエサルがローマに帰るには手持ちの軍を解散させて単身で行かなければならなかったのである。
一方でポンペイウスはローマにありながら、超法規的行為が許され軍団を率いていたため、カエサルが単身で政敵の軍に満ちたローマに入るのは自殺行為ともいえた。
BC48年、カエサルは本国に入らずにイタリア半島の北辺から元老院派と交渉を重ねたが実らず、ついに戦争を決意。
軍団とともに属州と本国との境界とされていたルビコン川を渡り、イタリアへ進撃を開始した。
『内乱記』は、ここから2年間にわたる、イタリア、ヒスパニア(スペイン)、北アフリカ、ギリシャ、マケドニア、エジプトなど当時のローマ共和国全土を舞台にしたポンペイウスとの戦争が描かれていく。
相変わらずカエサルの文章は簡潔で切れ味が鋭い。
戦争の舞台は広範囲におよぶものの、カエサルvs.ポンペイウスという構図が明確なので、いろいろな部族が入り乱れてよくわからないことになる『ガリア戦記』に比べてかなりわかりやすかった。
「賽は投げられた」は『内乱記』にはなかった
ちなみに、同じローマ人に対して戦争を起こすことを迷った末に、意を決してルビコン川を渡るときカエサルが放ったといわれる「賽は投げられた」というセリフは有名だが、『内乱記』では出てこない。というかルビコン川という地名すら出てこない。
『内乱期』では、カエサルが麾下の軍団に対して自らの正統性と戦争への決意を演説し、兵士たちが奮い立ったという記述のあと、
兵士の意志を確認するとカエサルは、その軍団と一緒にアリミヌムへ出発する。
とあるだけである(アリミヌムはローマ本国内の町)。
「賽は投げられた」とは後世の本で書かれた記述が原典で、本当にカエサルが言ったかどうかはよくわからないようだ。
この講談社学術文庫版での訳注によると、カエサルが「賽は投げられた」と言ってルビコンを渡るというドラマティックな場面は、200年ちかく後のローマ帝国時代に、スエトニウスによって書かれた『ローマ皇帝伝』にある。
また、スエトニウスの少し前に書かれたプルタルコスの『英雄伝』では、カエサルは「賽子(さいころ)を投げてしまえ」と言って戦争を決めたとのこと。こちらのほうがリアルというか、カエサルが悩みに悩んで切羽詰まった末の「えーい!やっちまえ」的なやぶれかぶれな感情が出ているかもしれない。
この『ローマ皇帝伝』と『英雄伝』も日本語訳が出ているので、いずれ読んでみたい。
- 作者: スエトニウス,國原吉之助
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1986/08/18
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- 作者: プルタルコス,村川堅太郎,Ploutarchos
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1996/08
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