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欺瞞飛行

giman hikou ――本やゲーム、その他よくわからないブログ

『ガリア戦記』→『カエサルを撃て』のコンボがとても良かった

歴史

anond.hatelabo.jp
この増田エントリを見て『ガリア戦記』(講談社学術文庫版)と、ブコメにおすすめされていた佐藤賢一カエサルを撃て』(ついでに『内乱記』も)をぽちる。
カエサルのガリア戦争やアレシアの戦いについては大体知っていたけど、カエサルが書いた『ガリア戦記』そのものを読むのは初めてだった。

カエサルの『ガリア戦記

ガリア戦記は、古代ローマの英雄ユリウス・カエサルがローマ軍団を率いてガリア(現在のフランス)を征服する過程を、報告書という形で自ら執筆し、刊行したもの。
BC58~51年の8年に及ぶガリア戦争を1年ごとにまとめ、全8巻で刊行された(ただし8巻は別の人が書いたもの)。日本語訳版は、すべてをまとめて1冊にし、各巻を章としてまとめてある。

ガリア戦記』は古代史上に輝く名作として評価されているとのことだが、その特徴としては、カエサルの非常に客観的かつ簡潔な文体だ。主人公はカエサル自身だが、文中ではすべて「カエサルは~」と三人称にしてあり、また余計な虚飾や心理描写がなく、起こったことや各人の判断、言説などを明確に書いている。

当然ながらカエサルは都合の悪いところは書いていなかったり、事実と異なることを書いていたりする。しかしその文体のおかげで、僕らのような2000年後の読者ですら「カエサルが客観的に事実を書いている」と騙されてしまうようになっていて、よくできていると思う。

豊富な解説・資料がとても良い

講談社学術文庫版には、巻末に訳者による解説、用語集、索引、地図が掲載されている。
解説はガリア戦争に至る経緯や、ローマ国内でのカエサルの政治状況など、本編を読んでもよくわからない部分が書いてある。
また用語解説では、ローマ軍の軍制や装備、陣営の作り方、城壁の構造などが、図入りで詳細に解説してある。
これらがとても面白く、また本編がとてもわかりやすくなって良かった。

7巻が群を抜いて面白い

読んだ感想としては、上記の増田とほぼ同じだった。1~6巻は正直いってつまらなかった。

1~6巻は、ガリアの諸部族を制圧していくカエサルとその軍の行動が描かれている。ガリアだけでなく、時にはゲルマニア(ドイツ)、ブリタニア(イギリス)まで遠征し、つぎつぎと部族を従えていく。多くのガリア部族がどころどころで兵を挙げるが、かれらの半分蛮族のような軍隊(興奮すると服を脱いで戦ったらしい)では、軍制、装備、訓練、土木技術などすべてが高水準にシステム化され当時世界最強だったローマ軍にはとてもかなわず、ローマ軍が来るとすぐに人質を差し出して降伏してしまう(たまに激戦したりローマ軍を破ったりすることもある)。
春~秋に軍事行動を終えると、カエサルは要地に陣営を築いて軍団を駐屯させ、自らはイタリアに帰っていく。で、翌年また出てきて征服を再開。延々とこの繰り返しである。

カエサルの文の簡潔さや、ガリアに部族がたくさんありすぎて覚えきれないこともあって、読んでいてもどうにも盛り上がらない。読み進めるのが苦痛に近かった。強いてあげるとすれば6巻のガリア人の習俗を詳しく述べるところの記述は割と面白かった。

で、7巻(BC52年)である。ここから、それまでが嘘のようにがぜん面白くなり、一気に作品に引きこまれていく。

この年、それまで部族ごとにばらばらに動いて、カエサルに各個撃破されるだけだったガリア部族が、ウェルキンゲトリクスという指導者を戴いて団結し、組織的な反攻を開始するのである。

全ガリアを束ねたウェルキンゲトリクスがとった作戦は「焦土作戦」。
ガリア人たちは、自分たちの村や都市をことごとく焼き払い、ローマ軍がどこに来ようが、食料などの物資を調達できないようにしたのである。さらに、強力なローマ軍との正面からの会戦を避け、ガリア人が得意とした騎兵での補給路襲撃に専念する。

補給に苦しむカエサルは、ついに撤退を決意した。
ローマ軍の撤退を見て、ウェルキンゲトリクスは追撃を開始するのだが、退却中とはいえやはりローマ軍は強く、正面から挑んでしまったガリア軍は大敗してしまい、「アレシア」という都市に逃げ込むことになった。

それを見たカエサルは、ウェルキンゲトリクスを捕らえて戦争にかたをつけるべく、アレシアを攻囲する。
ウェルキンゲトリクスは、攻囲下のアレシアからガリア全土の各部族に檄を飛ばし、救援を呼びかける。
アレシアを囲むカエサルのローマ軍10個軍団、総勢5万。それに対し、ガリア王を救うべく、全土から25万のガリア軍がアレシアに集結した。

ガリア戦争のクライマックス「アレシアの戦い」が始まる。


という感じで、ここからも超熱いのでガリア戦記超おすすめ。

ガリア戦記 (講談社学術文庫)

ガリア戦記 (講談社学術文庫)


佐藤賢一カエサルを撃て』

で、『ガリア戦記』を読んだ余韻でそのまま『カエサルを撃て』に突入。

上述のガリア戦争の7巻、ウェルキンゲトリクスの蜂起~アレシアの戦いの部分を題材に、ウェルキンゲトリクスカエサルを主人公として描いた小説である。

ガリア戦記の簡潔な文体と対比させる意図だと思うが、『カエサルを撃て』では、登場人物たちがくどくどくどくどと内心を語る。語り倒す。どうでもいいような感想や葛藤まで全部文になっている。

主人公のウェルキンゲトリクスは、弱冠20歳、鉄の意志と神のごとき容姿を持つカリスマの塊のような若者である。ただその振る舞いは粗暴そのもので、簡単に人を殺すし女を犯す、街を焼く。

一方でカエサルはハゲてきた頭を気にする50前の中年。弁舌がうまく、周囲への気遣いで出世してきたおっさんである。ガリアでは征服者として畏怖されているが、内心では若いガリア王に嫉妬したりローマの政敵ポンペイウスにビビりまくっている。

この対極の個性を持つ二人の英雄が、ガリアでの戦いを通じて変わっていき、互いを宿敵だと認識していく。
その戦いと変化の過程が登場人物たちのとてもクドい独白で描かれる。

ストーリーはほぼガリア戦記に沿っていて、また戦記ではわかりにくかった部分も(史実ではなく小説としての解釈ではあるが)補完されているので、『ガリア戦記』の直後に読むととてもわかりやすくて楽しい。

また、カエサルが陣中で「ガリア戦記」を書いている場面がところどころにでてくる。ある負け戦では、カエサルが指揮官である自分のミスではなく兵士のせいで負けたかのようにして戦記に書いているのを部下の若手士官に見つかって、殴られたりしている(情けないオッサン上司である)。その兵士のせいにしている部分を『ガリア戦記』でまた読み直すと味わい深い。

そしてその後の、アレシアの戦いの前のローマ軍の軍議のシーン。ここが一番好きな場面だった。ここだけ何回も読んでしまった。

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そんな感じで、『ガリア戦記』と『カエサルを撃て』、セットで読むと単独より5倍くらいは面白いと思う。