欺瞞飛行

giman hikou ――本やゲーム、その他よくわからないブログ

『世界戦史 歴史を動かした7つの戦い』に中二マインドをわしづかみにされた話

信長の野望」が好きでした。

小学生のころ、親戚のお姉ちゃんにもらったスーパーファミコン版の「信長の野望 武将風雲録」。
説明書もなく、意味不明の数字や漢字がたくさん並ぶなか、何のコマンドを実行すれば何がどうなるのか、試行錯誤しながら覚えていきました。
小学生の私は、信長の野望で地理や漢字を覚えました。


中学生のころ、自転車で40分ほどかかる山奥の友達の家に足しげく通い、プレイステーション版「信長の野望 天翔記」を一緒にプレイしていました。
実写シーンすら流れるプレイステーションのグラフィックや、ものすごい数の武将と城、複数勢力が入り乱れる大規模合戦に圧倒され、酔いしれました。
また、歴史小説にもハマり、父の本棚にあった司馬遼太郎や山岡宗八、吉川英治池波正太郎などを読み漁っていました(ただ『剣客商売』を読んでいたら「子どもがそんなものを読むんじゃない」と父に取り上げられました)。


高校生のころ、ついに自分のおこづかいでプレイステーションを買うことができ、ひたすらPS版「信長の野望 烈風伝」や「チンギスハーン」をプレイしていました。
未開地域に道路を引き、支城や都市をつくり、発展させていく過程にはたまらない感慨がありました。
そして受験が近づくころ、身近な大学に史学科があることを知り、そこを受けることにしました。


めでたく大学生になりました。史学科のクラスメイトの少なくない人が、「信長の野望」か「三國志」のゲームのファンでした。というか講師にすらゲームから歴史に入った人ががいました。
ですが、日本においては、歴史研究とは、当時の社会に生きた人々の様相を明らかにしていくことであり、ゲームや小説で描かれ、皆が熱くなるような合戦や武将の活躍のドラマは「歴史学」とはみなされていませんでした(特に軍事は忌避されていました)。
大学での勉強は想像していたようなものでなく、文書の崩し字を読む練習をしたり、書庫にこもって本や論文を読んだりし、家では「信長の野望 嵐世紀」や「提督の決断Ⅲ」などをやっていました。


そんなあるとき、駅のコンビニで偶然見つけたのが、「歴史群像」という雑誌でした。
これは戦史にフォーカスした雑誌で、古代~現代の全世界の戦いや軍制・兵器などの記事が載っています。
上に書いたようにもともと戦国の合戦が好きだったので、こんな世界があったのかと衝撃を受けました。
さっそく読み始め、ムックなども集め、戦史の世界にどっぷりはまることになりました。


ところで、さまざまなライターが寄稿する「歴史群像」の中に、一人、異質なライターがいました。

その人は、西洋古代~近世の戦史についての記事をよく書いていました。特徴的なのはその文章であり、客観的でありながら情緒的で、ときに回りくどく、溜めや体言止めを多用します。
要するにやたらカッコいい文章で、読んでいるとふつふつと熱いものがわきあがってきました。私の中二マインドにクリーンヒットしたのです。

そのライターは、有坂純さんといいました。



……ということで、長すぎる前置きは終わりです。

特別お題「青春の一冊」 with P+D MAGAZINE
http://blog.hatena.ne.jp/-/campaign/pdmagazine



私の青春の一冊は、その有坂純さんの『世界戦史』(学研M文庫)。

世界戦史―歴史を動かした7つの戦い (学研M文庫)

世界戦史―歴史を動かした7つの戦い (学研M文庫)


これは、世界史における重要ないくつかの戦いを描いた本です(「歴史群像」寄稿記事の加筆修正版)。
古代ヨーロッパのアレクサンダー大王カエサル、古代中国の漢帝国匈奴、モンゴル対南宋の戦いなどをそれぞれ取り上げ、解説していきます。


戦いを取り上げる際、有坂さんは最初に、徹底的な「俯瞰」の視点から入ります。
取り上げる戦いが、戦史において、あるいは人類史上において、どのような意味をもつのか、何を象徴しているのかを、まず語っていく。

そして次に、とりあげる戦いの背景として、社会の状況、政治情勢、双方の軍備などを具体的に描写していきます。
さらに、戦争が起こり、その決戦に至る経緯を追っていきます。

それぞれの軍隊を構成する将兵たちは、社会状況、政治情勢、文化、道徳、歴史、感情など、さまざまなものを背負って、戦いに赴いている。
やがてそのすべてが、一つの「決戦」に集約されてゆきます。

そして、双方の兵士たちがすべてをかけて激しくぶつかり合い、燃え上がり、儚く消える。

文明対文明、民族対民族、システム対システム。歴史のうねりそのものが生み出す一瞬の火花がダイナミズムを生み、胸を熱くさせてくれました。

歴史小説や映画、漫画の面白さは、人間ドラマの面白さでしょう。
また、学問としての歴史には、昔の人が書いたり遺したものに触れ、当時の人々の息づかいを感じ、生きていたころのようすを想像する楽しさがあります。

しかし、この本は、それとは異なるやりかたで心を揺さぶってくる。
新しい歴史の面白さを教えてくれた一冊でした。


ちなみに当時の私は、この本のおかげで歴史嗜好における中二病に罹患し、
「戦争の勝敗を決めたのは個々人の将の力じゃないんだよ 歴史の流れなんだよ」などと周囲に力説して「邦楽をバカにして洋楽を崇拝する中学生」みたいなことになっていました。

また、それにより私はコーエー派を脱し、現在はParadox派に入信していることを報告させていただき、読みにくい文をここまで読んでくださったお礼に代えさせていただきます。どうもありがとうございました。